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2011年10月

《幻夢の背泳》 谷川雁 著

少し前に、ふと思いついて谷川雁の《幻夢の背泳》 を手にしました。

挿画には、山口のエッチング作品 《千の高原》が使われています。

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谷川雁 著
河出書房新社 
菊池信義 装丁
1995年

挿画 山口啓介

谷川雁さんは、1995年3月に、この著作が出版される直前の

2月2日に亡くなり、これが最後の作品となりました。

はじめの章、「大消滅・小消滅」では大宇宙の死亡について

語られてゆきます。以下、文中より引用。

「 宇宙は消滅するか。この問いをいまの全地上にひろげたら、

どんな結果が得られるだろう。ゲリラは銃を置き、難民は洗濯を

やめ、すべての日常業務を一呼吸二呼吸停止し―原子力発電所

も消防署も病院も数分間閉鎖して― いっせいに否か然りかの

記入を求める。全人類がしんと黙りこくって考えたあとの地球は、

答のいかんにかかわらず、以前よりすこしつめたくて明るい、

いわば否定形の陽性を帯びるのではないか。世界の閉じ方に

ついて、その究極のモデルについて、地動説よりも巨大な変化

が提示されているのに、人人の思想は決してそこへ追いつくこ

とのできない光のように見える。」

「 世界全体が幸せにならないうちは(=世界の閉じ方について

悩まない人間に)、個人の幸福はあり得ない(=個人の閉じ方

についてのモデルができるはずがない)。忘れてなるまいが、

個人は自分自身が死ぬことそのものをあらためてまなばねば

ならない存在なのだ。一回きりの学習が万人を待ちかまえている。

一回性こそは消滅なるものの真相といえる。・・・・」

手作り「細胞一神教」の章からの引用

「 生命糸が水にかたむいて以来、火と水の物語は海に移り、

その相剋は細胞と細胞の内訌に転写する。・・・・(省略)」

「 それゆえ地球最初の細胞―原細胞は、その後の億兆の

細胞から恋い慕われる。この憧憬を無視してしまうなら、生命

細胞が瞬時もやむことなく複製されつづける理由がみつから

ない。いかなる王よりも王であり、どんな神よりも神である、

〈生ける中空〉の始祖。ここが一神教の基部だと説かれたら、

いさぎよく納得しよう。

 創造主。あなたは自然を創ったのではない。〈内部をもつ

自然〉を創ったのだ。

唯一神。あなたは宇宙にたいして、ひとりなのではない。

細胞にたいして、ひとりなのだ。ゆえに創造主はある日の地球

の顔をしており、現在の細胞の数だけ唯一神が存在する。

これが神の普遍というもののなかみと明かされたら、よろこんで

帽子をとろう。」

気になる箇所を抜粋しました。どこかその後の山口の作品世界とも

通じているようにも感じられ、不思議な感覚をおぼえます・・・

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千の高原 /1990 /エッチング 山口啓介

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