制作にまつわること

《井戸の上のカセットキューブ》 ゴーラ

1998年 《井戸の上のカセットキューブ》が制作された同じ年に、東京青山の

ギャラリーイデアで開催された山口啓介展のカタログの中に、次のような文章が

記されています。

「ある病院のプロジェクトの機会があり、(中略)主催者はサイトが和歌山にある

病院だいうことで、紀伊半島および熊野の地域に数回に分けた旅行とミーティン

グを実行した。一方、医療を含めた関係書籍が購入されたり、多量のコピーが

配られた。(中略)主催者より資料として見せられたビデオの一つに、和歌山県

の古座川流域で行われている、山蜜蜂の自家養蜂の様子を撮影したものがあ

った。興味を持ったことから、そこに写っていた猟師の前さんに会いに行くこと

になった。前さんはこの地域でゴーラと呼ばれている、木をチェーンソウで刳り

貫いたものを天然の巣箱にしていた。その中に山蜜蜂が巣をつくる。人間の作

った巣のなかに巣をつくったようにも見える。・・・」

このとき、山口は猟師の前さんのご好意でこの蜂の巣箱「ゴーラ」を手に入れます。

そして、この「ゴーラ」はその後、「井戸の上のカセットキューブ」の「井戸」の役割を

果たすことになります。「井戸」と「ゴーラ」、何か共通点があるとすれば、「穴」?・・・

とにかく、その「ゴーラ」は「井戸の上のカセットキューブ」の台の中に、まるで最初

からそのために用意されたかのようにすっぽりと収まりました。

その中からは蜂たちの羽音が聞こえてきそうです。

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山口啓介  《井戸の上のカセットキューブ》 高崎哲学堂展示風景 2003年

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《井戸の上のカセットキューブ》 はじまり

1998年、名古屋のギャラリーAPAでの個展 「山口啓介展“近代日本の文学”」が開催されました。

この展覧会の為に「井戸の上のカセットキューブ」が作られたのは、このギャラリーAPAというスペースの、ほかのギャラリーでは考えられない(いえ、他のどんな屋内にもたぶんない)ある特徴によるものでした。

このギャラリーの中央の床には、直径60cmくらいの穴がぽっかりとあいていて、
それが、なんと井戸であったということでした。

この井戸は、ギャラリーを建設する前からこの場所にあり、埋めてしまうと風水的に
良くないということで、そのままギャラリー内に残されたということ。

当時の豪傑オーナー鈴木氏(ガンで逝ってしまわれた)を知る人なら、
それくらいのことはなんの不思議もなかったと想像します。

そして、その井戸を面白がった何人かのアーティストが、井戸を利用して作品を展示した、と聞いた山口は(たぶんオーナーの思惑どおり)やはり面白がって井戸のための作品を考えたのでした。

Photo

ギャラリーAPAの展示風景

そうして完成した「井戸の上のカセットキューブ」は、

井戸の上に、少し背の高い木製の台。
台の上には、天板がないアクリルボックス。
アクリルボックスには、カセットプラントが貼られ、
ボックスの中には水の入ったシリンダー。

台の中心から管をとおして、シリンダーの水が井戸に一滴ずつ落ちてゆきます。

「水琴窟」

シリンダーをつたって井戸に落ちたしずくの反響が返ってくるまでの時間は意外に長く、しばらく耳をすませて待っていると、澄んだ音が、深い地下から微かに響きます。

井戸の中をのぞくと、少し下には青々としたシダが茂っています。

音を保存するカセットケースと、植物や種子を樹脂が保存するカセットプラント
水の音は人(私)の「記憶の音」となり、シダの緑は、「記憶の色」となる

シリンダーの水は、井戸の水になり、そして蒸気となりシダを育てる

ひとつひとつのものが、それぞれに関係しあい、循環する

「ひそやかな奇跡」

それが、《井戸の上のカセットキューブ》のはじまりでした。

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photo:Yuji Suzuki

http://www.fuji.bpl.jp/apa/yuji/1.html

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